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東京地方裁判所 平成元年(ワ)8195号 判決 1990年1月16日

原告 株式会社東京相和銀行

右代表者代表取締役 前田和一郎

右訴訟代理人弁護士 鳥居克巳

被告 株式会社ミユキ

右代表者代表取締役 川上淑夫

右訴訟代理人弁護士 関口保太郎

同 脇田眞憲

同 幣原廣

同 冨永敏文

同 吉田淳一

主文

一、被告は原告に対し、金四七二万二八五一円及びこれに対する平成元年七月八日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

三、この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一、原告の請求

主文同旨

第二、事案の概要

一、事実の経過

1. 原告は、昭和六二年五月三〇日、株式会社ブラウンズクラブ(以下「ブラウンズクラブ」という。)に対し、五〇〇万円を、昭和六二年六月から昭和六七年まで毎月二八日に八万三〇〇〇円宛、同年五月二八日一〇万三〇〇〇円を支払う、利息は年九・五パーセント、遅延損害金は年一八・二五パーセント、手形交換所の取引停止処分を受けたときは期限の利益を失う、との約定のもとに貸し渡した。

2. 原告は、右貸渡日に、前項の貸金債権その他将来発生する債権を担保するため、深沢正樹所有の別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)に極度額五〇〇万円の根抵当権の設定を受け、同年六月六日その設定登記を経た。

3. ブラウンズクラブは、昭和六二年一〇月二八日、手形交換所の取引停止処分を受け期限の利益を失ったが、右貸金の元金の一部として、昭和六二年一一月二日までに三三万二〇〇〇円(残元金は四六六万八〇〇〇円)、同月三〇日八万三〇〇〇円(残元金は四五八万五〇〇〇円)、昭和六三年一二月一二日七万八七一一円を弁済し、残元金は四五〇万六二八九円となった。

4. 株式会社住宅総合センターは、横浜地方裁判所に本件建物の競売を申立て(同庁昭和六二年(ケ)第九三五号)、昭和六二年一二月四日競売開始決定を受け、本件建物は一八九五万円をもって売却された。

5. 原告は、前記根抵当権に基づき、ブラウンズクラブに対する前記債権の残存額について次の配当要求をした。

元金 四五〇万六二八九円

遅延損害金

(一)  四五八万五〇〇〇円に対する昭和六二年一一月二九日から昭和六三年一二月一二日まで三七九日間年一八・二五パーセントの割合による八六万八八五七円

(二)  四五〇万六二八九円に対する昭和六三年一二月一三日から平成元年一月三一日まで五〇日間年一八・二五パーセントの割合による一一万二六五七円

(三)  四五〇万六二八九円に対する平成元年二月一日から同月二七日まで二七日間年一四パーセント(一八・二五パーセントの一部)の割合による四万六六六七円

以上遅延損害金合計一〇二万八一八一円、元金・遅延損害金合計金五五三万四四七〇円

6. 右競売事件の配当手続において、平成元年二月二七日、売却金一八九五万円について次の配当が行われた。

第一・二順位 株式会社住宅総合センターに対し

手続費用 五一万四〇九四円

利息・遅延損害金・元金 一三一二万八五五七円

第三順位 被告に対し 五〇〇万円

第四順位 横浜市中区役所に対し 三万〇二〇〇円

第五順位 原告に対し 二七万七一四九円

被告は、右配当期日に出頭しなかったので、横浜地方裁判所は被告に配当すべき五〇〇万円から郵送料と思われる六〇円を控除し四九九万九九四〇円を同年三月一五日横浜地方法務局に供託した。

7. 原告は、配当期日において第三順位の被告の債権が存在するものと信じていたので、配当異議の申出をしなかったのであるが、後日になって、被告の債権が存在せず、被告は法律上の原因なくして右供託金を受領したことが判明した。

8. 被告に配当がないとすれば、原告は、前記第五順位の配当要求合計金額五五三万四四七〇円のうち前記根抵当権の極度額五〇〇万円の配当を受け得たところ、被告に配当金が計上されたため二七万七一四九円の配当に止まり、四七二万二八五一円の配当を受けられなかった。

(以上の事実は、関連の証拠及び弁論の全趣旨により明らかである。)

二、原告の主張

1. 原告は被告に対し不当利得返還請求権を有する。

2. 仮に、不当利得の主張が認められないとしても、被告は、被担保債権がないのに抵当権設定登記を残存させ、債権届出の義務にも違背して債権がない旨の届出をせず、他方、原告は、被担保債権ありと信じ、信じたことに責を問われるいわれがないにもかかわらず、本来原告に配当されるべき金員を被告が取得することは正義公平の原則にもとるから、条理に基づきこれをただすべきである。

3. 右の主張がいずれも認められないとしても、被告は、本件競売において、被担保債権の弁済による消滅を知りながら、債権届出の催告を受けても故意に債権がないことの届出をせず、仮に故意でないにしても、重大な過失により届出を怠り、そのため実体法上の権利がないにもかかわらず配当を受け、原告において配当を受けることができなくして原告に同額の損害を与えたものであり、被告は原告に対し右損害を賠償すべき義務がある。

三、被告の主張

1. 原告は配当期日に出頭して配当異議の申出をしていないのであるから、被告が配当金を受領したことは、法律上の原因がないとはいえず、原告は配当手続終了後において不当利得返還請求権を主張できない。

2. 請求の根拠として条理を独立して主張することは失当である。

3. 民事執行法五〇条三項は、催告を受けた債権届出義務者が故意又は過失によりその届出をしなかったときの賠償義務を規定しているが、その損害の範囲は、直接損害、すなわち、債権者が民事執行上の債権届出義務を怠った結果発生した民事執行上の手続費用の損害に限られる。しかも、被告が債権届出をしなかったことと原告がブラウンズクラブに対する貸付債権を回収できなかったこととの間には相当因果関係があるとはいえない。

仮に、原告の損害賠償請求権が成立するとしても、過失相殺されるべきである。

第三、争点に対する判断

配当期日において異議がなかったため実施された配当の結果について、それが真実の権利関係と相違することを理由として不当利得返還請求ができるか否かについては、議論のあるところであるが、本件の原告のように執行目的財産の交換価値を実体法上把握している担保権者は、配当の結果、自己の実体法上の優先権が侵害されたときは、その部分の配当を受けた者に対して不当利得の返還を請求することができるものと解するのが相当である。

第四、結語

よって、被告は原告に対し、四七二万二八五一円及びこれに対する平成元年七月八日(訴状送達の日の翌日)から完済まで年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

(裁判官 石垣君雄)

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